鹿児島県にある鹿児島神宮として知られる大隅正八幡宮の「大隅正八幡宮縁起」によると、
震旦国(中国)の陳大王の娘・大比留女(おおひるめ)は、七歳のとき夢で朝日を受けて身籠もり、王子を生んだ。 王たちはこれを怪しみ、母子を空船(うつほぶね)に乗せて海に流したところ、「日本の大隅の磯岸に着き給う。その太子を八幡と号し奉る。(…)大隅国に留まりて、八幡宮に祭られ給えり」。母は「筑前国(…)香椎聖母大菩薩と現れ給えり」とある。
先に、古事記の『海佐知と山佐知の話』との類似点を多く持つということに注目して紹介した『沖縄の宮古の伊良部島に伝わる「太陽神の嫁」と言う話』は、この「大隅正八幡宮縁起」と大変よく似ている。
2015年6月24日に http://totoro820.ti-da.net/e3160646.html から引用して紹介した「太陽神の嫁」については、こちらを参照のこと。
沖縄の宮古の伊良部島に伝わる「太陽神の嫁」と言う話。 - kaiunmanzoku's bold audible sighs
「太陽神の嫁」の一部を引用する
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(・・・)比屋地(ぴゃーず)の神はとても綺麗であり、それはそれは美人だったそうです。そのため太陽の神が自分の妻に欲しがったそうです。
或る日のこと、その美人は朝、便所に坐わっていたところ、太陽の神の手のように光が射し込んできて妊娠したそうです。
(・・・)長男である兄は、結婚もしていないのに妊娠するとは何てふしだらな女かと怒こり出し、妹に向かって言うことには、
「お前など、何処かへ行ってしまえ。父の顔も知しらない子を身籠もるなど、一族の恥だ。今直ぐ出て行け。お前のようなやつには何もやらない。」と言うなり、家を追い出してしまったのでした。
それを見ていた二番目の兄が追い掛けてきて、妹に優しく言うことには、
「身重のお前一人で暮らすなど、出来る筈ずがない。私が一緒に行ってお前を助けるから何も心配することはない。」と、そう言って、ついて来ました。
その兄は、茅葺の家を作り始めました。そして、まだ屋根に茅を載せないうちに、子どもが生まれたそうです。
(・・・)次の年の誕生日に、大層綺麗な馬が、同様に綺麗な人を乗せて庭に降りて来たそうです。すると馬を見た子どもは、自分も馬に乗ると言って聞きかず、いくら危ないからと言い聞かせても乗るの一点張りです。そして、少しだけのつもりで馬に乗せてみたところ、あっという間に何処かに連れ去られてしまいました。
(・・・)次の年の同じ日のこと、子どもが馬に乗って戻ってきました。
母が言うには、「一番上の兄には話を少しも聞いて貰えず、一方的に家を追い出されてしまい、二番目の兄亡なき今、私には兄妹がないも同然です。私もまた一番上の兄をもはや兄とは思っていません。ですから自分には、何処かにいるはずの夫と、あなたをおいて、身寄りは他にありません」と言い、それから一緒に馬にのると、天に上がって行きました。
親子二人で天に昇ってみると、太陽の神が待っていました。
そして言うことには、
「お前は、父のない子ではない。私こそが父である。お前達に伊良部島を与える。
そこへ降りて行って、伊良部の土地の主として暮らすがよい。」と。
そして神は二人を島に降ろしたそうです。
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大隅正八幡宮の「太陽神の子供」とその母は「日本の大隅の磯岸に着き給う。その太子を八幡と号し奉る。」母親は「筑前国(…)香椎聖母大菩薩と現れ給えり」ということで、漂着した九州に祀られ、宮古島の昔話の「太陽神の嫁」とその子は伊良部島の土地の主になるという違いはあれど、非常によく似た物語である。
太陽の光、しかも朝日によって身ごもる娘。太陽神(虚空津日子《ソラツヒコ》=火袁理命《ホソリノミコト》=山佐知)や鵜萱草萱不合命の出生の描写、茅葺の小屋ができる前に産気づく娘。空船(うつほふね)で流される母子と馬(うま)に乗る母子。
この二つの話と古事記を併せ読めば「八幡」と号する太子が南西方面からの海流と共にやって来たことを強く暗示している。隼人族の大隅半島上陸と関連するのだろう。
「八幡」とは、耶秦、八秦、やはた、はやた、はやと、速玉 であり、速玉神社や伊弉諾とも関連する言葉であろう。宇佐、宇美、宇治瀬、鵜という言葉や球磨、久米、隈という言葉が隼人族と関係するように。
おそらくは、古代隼人族に関連する話が沖縄に点在するの違いない。
《参考》
主祭神:天津日高彦穂々出見尊(山幸彦)豊玉比売命 - 天津日高彦穂々出見尊の后神
鹿児島神社(宇治(氏)瀬神社)
祭神:豊玉彦命-豊玉姫命の父神(海神)、天津日高彦火々出見尊(山幸彦)、豊玉姫命-天津日高彦火々出見尊の后神、豊受命の4柱
鹿児島神社(下宮神社)
祭神:彦火火出見尊(山幸彦)、豊玉姫尊ー彦火火出見尊の后神、玉依姫尊-鵜萱草萱不合命の后神・豊玉姫尊の妹神、塩司翁・猿田彦命、天智天皇、大宮姫